MGトライアル・チーム「Cream Crackers'」について

本誌は1987年の創刊当初より年に4〜6回のペースで刊行を重ねて参り、このたび無事に記念すべき50号発行の運びとなりました。創刊号の表紙に記載されておりますとおり、タイトルの「Cream Crackers'」は1930年代に活躍したMGのトライアル・チーム名を由来といたしますが、今回の記念号の表紙に最も活躍した「Cream Crackers' TJ5000」を登場させたことも鑑み、栄光の歴史に彩られたこのトライアル・チームの、特に今でも多くの人に愛され語り継がれているPタイプ・ミジェット時代に関して、改めて解説いたします。

<初期のMGトライアル・チーム>
1930年代初頭、英国各地では、道なき道を駆け抜けるモータースポーツの1カテゴリーであるトライアルの人気が急速に高まりつつありました。小型ながら高性能のMG-J2ミジェットを駆るJ. Maurice Toulmin(登録番号:OJ3305後にWP2915)、Jack A. Bastock(同:JB859)、R. A. Macdermid(同:TJ2)の3人は、名もないプライベート・チームを結成して各地のトライアルに積極的に参加していましたが、トライアル熱の高まりとともに各自動車メーカーがプライベートで参加する個人競技者をサポートするようになると、MG社もレース用部品の安価な供給やクルマの整備などを申し入れ、1933年12月30日のExeter Trialからワークス・チームが誕生しました(この最初のレースでプレミア賞やチーム賞を獲得)。これが「Cream Crackers'」の前身となりますが、暫くは前述の3名のドライバーに加え、T. C. TaylorやLewis Welch、Harry Summerfieldなども時折チームに加わるなど、ハッキリとした体制は確立されておりませんでした。

<Cream Crackers' Teamの誕生>
1934年になるとMG-PAミジェットが新しく発表され、3月のLands End Trial(古くは1925年にCecil KimberがOld No.1で金賞を受賞したトライアル)を機に、Toulmin(シャーシ番号PA0337・登録番号TJ5000)とMacdermid(PA0336・JB3639)が新車(塗色は両方ともブルー)を、そしてBastock(PA0682・JB3854)が9月に新古車(塗色はレーシング・グリーン)を手に入れて活躍の度を増し、おびただしい賞を獲得するようになります。この頃はまだ各々がオリジナルの塗色のままで、スーパーチャージャーも取り付けられておらず、自然吸気のまま主に軽量化を中心としたチューニングがなされていただけです。
やがて1935年4月19〜20日のLands End Trialを機に、MG社はパブリシティ目的で3車をクリーム色のボディーに茶色のウイング(フェンダー)に塗装します。これが「Cream Crackers'」の誕生ですが、塗色を見てビスケットを連想し、その後のチーム名にもなるおかしな愛称を付けたのが、今となっては誰かは分かりません。
ところで、チームには正式に属していませんでしたが、同じようにPタイプ・ミジェットを駆る前出のHarry Summerfieldは、フロントにマーシャルのスーパーチャージャーを取り付け、ハイパワーを謳っていました。これを見てまずMacdermidがセントリック・スーパーチャージャーを採用し、Toulminも1935年7月23日にそれに習っています(MG社からToulminへの請求書が現存している)。ただし、Bastockがスーパーチャージャーを取り付けていたのかどうかは定かではありません。
この年、1935年はチームにとって再び輝かしい年となりました。そして12月28〜29日のExeter Trialを機に、酷使された3台のPAミジェット(TJ5000、JB3639、JB3854)は引退、新しいPBミジェットが登場します。表紙のイラストは最も有名なToulminのPAです。このクルマは1934〜35年に28のトライアルに参戦し、2度のリタイヤがあるのみで、クラス優勝を何度も含む上位入賞常連の、素晴らしい戦績を誇っています。

<Cream Crackers'第2世代=MG-PBミジェット>
さて、1935年最後のExeter Trial(12月28〜29日)では、Cream Crackers'は新しいPBミジェットにマーシャル・スーパーチャージャーを取り付けて参戦しました。この時、MacdermidとBastockは6気筒のNタイプ・マグネットで活躍するもうひとつのMGトライアル・チーム「Three Musketeers(『三銃士』の意味)」に移籍したため、引き続き「Cream Crackers'」チームを引っ張るToulmin(シャーシ番号PB0521・登録番号JB7521)に加え、Ken Crawford(PB0533・JB7524)、 Jonar. E. S. Jones(PB0535・JB7525)が新たに加わりました。Crawfordは1933年にはシンガー、1934年にはウーズレー・ホーネットに乗っていた、いわば「かつての敵」ですが、1935年はNタイプ・マグネットに乗って前述の「Three Musketeers」の第四の男として活躍していました。Jonesは1935年はJ2に乗っていたプライベーター、大抜擢と言って良いでしょう。
新しいPBミジェットCream Crackersは、PA時代とほぼ同様の外観ながらアルミを多用して更なる軽量化を図るとともに、マーシャル・スーパーチャージャーによるエンジンのパワー増大は著しく、1938年にTAミジェットに変わるまで、再び輝かしい戦績を残しました。なお、ToulminのJB7521は名著「Wheelspin」の著者Austin N. Mayに買い取られ、その著書にも登場しています。
(Hiro)

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